体験設計は、ユーザーがどのような状態で参加し、どのように感じるかを設計することです。 AIが発達するほど、情報や機能の最適化は容易になりますが、「体験」そのものの価値はむしろ高まっています。
- 人は自分が何を望んでいるか正確に言語化できない
- 体験は事前・当日・事後の連続で構成される
- 優れた体験は「定義され、事前に伝えられている」
この記事では、体験設計とは何か、なぜそれが重要なのか、そしてAI時代においてどのような意味を持つのかを整理します。
この記事の内容
体験の準備は事前に始まっている
少し前、友人の転職祝いでフレンチのレストランに行った。予約の確認メールには、ドレスコードの案内と、当日のコース構成の簡単な説明が添えられていた。「ジャケット着用をお願いしております」というだけでなく、「本日は全8品のコースをご用意しております。食材の産地や調理法、おすすめのワインについてはソムリエよりご説明いたします」という一文があった。
その瞬間、僕はすでに"体験の準備"に入っていた。
これは何気ないことのように見えて、実はすごく意図的な設計だと思う。
今回はよく聞かれる「体験設計」って何するの?という問いにも答える形でまとめていきたいと思う。毎度ながら最後までお付き合いいただけると大変嬉しく思う。
人は「どうされたいか」を知らない
消費者行動の研究に、面白い知見がある。人は自分が何を欲しているかについて、聞かれても正確に答えられないことが多い。スタンフォード大学の研究者たちが繰り返し示してきたことでもあるが、人間の選好というのは「潜在的に存在している」のではなく、「文脈の中で構成される」ものだ。つまり、何かを体験して初めて「ああ、これが欲しかったんだ」と気づく。
これはブランドやサービスを設計する人間にとって、なかなか厄介な前提だ。
「お客様が何を求めているか」をリサーチしようとしても、お客様自身がそれを知らない。インタビューをしても、アンケートをとっても、出てくる答えは「現在の体験を少し改善したもの」か、「すでに知っているものの言い換え」になりやすい。ヘンリー・フォードが「もし顧客に望むものを聞いていたら、もっと速い馬と答えただろう」と言ったとされるのは、このことを指している。同じような例としては、スティーブ・ジョブズの名言で「顧客が何を欲しいのか、それを見せられるまで顧客自身も分からない」といったものもある。
だから体験を設計する側も困る。相手が望む体験を言語化できないなら、どう設計すればいいのか。
多くの場合、この壁にぶつかると、設計者は商品の「機能」に逃げる。スペック、性能、価格、使いやすさ。これらは測定しやすく、比較しやすく、説明しやすい。体験より、商品の機能的価値の方が「語りやすい」からだ。でも正直に言うと、これは体験設計を諦めているのと同じだと思う。
体験は「流動的」であり、「一人ひとり違う」
体験というものは厄介で、人によって千差万別だし、同じ人でも、そのタイミングや気分によって全然変わってしまう。昨日は静かにゆっくり食事がしたかったのに、今日は賑やかな場所でわいわいしたい、ということは普通に起きる。
だとすると、「ユーザーリサーチを丁寧にやれば体験設計ができる」という考え方には限界がある。どれだけデータを集めても、その人の「いま、この瞬間」の状態には追いつけない。
ここで多くのサービスが陥るのは、「平均的な体験」を設計してしまうことだ。最大公約数を取ろうとした結果、誰にとってもまあまあ、という体験が生まれる。可もなく不可もなく。記憶に残らない。
体験を定義して、事前に伝える
では、優れたブランドやサービスはどうしているか。
答えはシンプルで、「体験を定義して、事前に伝えている」。
フレンチのドレスコードというのは、一見すると「お店側の都合」に見える。でも本質的には、「ここでは非日常の時間を過ごしてください」という体験の定義だ。スーツやジャケットを着ることで、客は日常モードから切り替わる。それだけで、食事の味わい方が変わる。
お客さんは「マナーを守らされている」のではなく、「マナーを守ること自体が体験の一部である」という定義を受け取っている。
最も優れた体験設計者は、ゲーム会社だ
体験の事前定義という観点で、僕が最も参考にしているのは、コンシューマーゲームのオンボーディング設計だ。
ゲームというのは、プレイヤーに複雑なルールや世界観を短時間で理解させる必要がある。しかし説明書は読まれない。だから優れたゲームは、プレイしながら自然に学べるよう設計されている。
体験は「定義して、伝える」ことがクリエイティブだ
体験が流動的であるなら、「こういう体験をする場所です」と定義し、事前に届けることがひとつの解になる。
体験の輪郭を伝えることで、人は準備できる。そして準備した人ほど、体験の深度は深くなる。
AIと体験の関係
情報の多くがAIを介してやり取りされる未来は十分にあり得る。しかし人間の体験そのものがAIに置き換わることは、少なくとも当面はない。
体験は五感を通じて得られ、非常に複雑で、まだ完全に体系化されていない領域だからだ。
余談:個人の話
「どうして欲しいか」を他者に伝えるのは難しい。自分でもよく分からないことが多いからだ。
体験設計の話をしていたら、自分自身と向き合っている気がしてきた。
転載元
※XAが運営するNoteメディアの記事を転載しています。
体験設計がなぜ必要?AIにはできない理由。
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