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そのツール、中身を説明できる人はいるか - 現場が自分で自動化を書き始めた時代の、内製と負債の設計

生成AIによって、現場の誰もが自分で小さな自動化を書ける時代になりました。 一方で、作れる人が増えた速度に対して、作られたものを理解し、維持できる人は増えていません。

  • AIによる内製化は、現場の改善速度を大きく上げている
  • 問題はコード品質だけでなく「誰も説明できない状態」が積み上がること
  • 自動化を資産にするには、説明可能性・運用責任・継続率の設計が必要になる

本記事では、現場主導のAI内製が広がるなかで、 自動化を負債にせず組織の資産として残すための設計を考えます。

月曜の朝、EC担当のメンバーがSlackに一本のリンクを貼った。「週次の在庫アラート、自動で出るようにしました」。開いてみると、モールごとの在庫数を突き合わせて閾値を割った商品をチャンネルに流す、小さなツールだった。作業時間は週に二時間ほど浮くという。素直に嬉しかった。

三週間後、そのアラートが止まった。作った本人は産休に入っていた。誰も中身を知らない。ログを追える人もいない。結局、担当者はまた手作業のスプレッドシートに戻った。

浮いた二時間は、確かに存在した。ただ、その二時間は誰のものでもなかった。

書ける人が急に増えて、読める人が増えていない

2026年に入ってから、この手の話がやたらと増えた。理由ははっきりしている。現場がコードを書けるようになったからだ。

総務省が2026年7月に公表した令和8年版情報通信白書によれば、何らかの業務で生成AIを使っていると答えた日本企業は86.4%に達した。2024年度調査の55.2%から一年ちょっとで三割ポイント以上を積み増している。米国90.9%、ドイツ91.6%、中国98.1%との差も、もはや語るほどのものではない。活用方針を明文化した企業も68.9%まで来た。

道具の側も走っている。OpenAIのCodexは2026年8月時点で無料プランを含む全ChatGPTプランから使えるようになり、CLIの更新は週次に近い頻度で続く。Anthropicは8月26日にClaude in Chromeを有料プラン全体へ一般提供し、ブラウザ上での自律操作を解禁した。同月20日にはClaude Academyという学習サイトも公開している。ShopifyのSidekickはWinter '26で「聞けば答えるアシスタント」から「判断して実行するエージェント」へ位置づけを変え、追加料金なしで管理画面に居座っている。

つまり、EC運用の現場から見て、自動化の入口はもう技術部門の向こう側にない。手元にある。

問題は出口のほうだ。

94%が「良い」と言い、82%が壊れている

New Relicが2026年6月に出した「2026 State of AI Coding Report」の数字がこの違和感をきれいに言語化してくれた。米国の中堅・大企業のテクノロジー意思決定者200名への調査だ。

レビューの時点でAI生成コードを「人間が書いたものより高品質」と評価したリーダーは94%。ところが本番に出た後を聞くと、過去6か月にAI生成コード起因の本番障害を経験した組織が82%、インシデントが増えたという回答が78%、シニア人材がコード修正に費やす時間が増えたという回答が86%にのぼる。そして62%が行単位の目視確認をしないままリリースしている。

国内の調査も似た方向を指す。2026年2月に実施されたAI生成コードのレビュアー調査では、86.3%が負担増を実感し、78.6%がAI起因のバグ修正を経験している。AI生成コードのレビュー時間は人間が書いたコードの1.7倍、指摘されるバグ数は平均10.83個に対して人間のコードは6.45個という報告もある。

ここで起きているのは、単純な品質不足ではない。読んだ瞬間はきれいに見えるのに、動かし続けると誰も面倒を見られなくなる、という種類の劣化だ。研究の世界ではこれを技術負債から切り分けて、認知負債や意図負債と呼び始めている。私はもっと身も蓋もなく「理解負債」と呼んでいる。書いた本人すら、なぜそう書いたのかを半年後に説明できない。あの在庫アラートが止まった日の話は、まさにそれだった。

効率化の成果は続いた分しか残らない

誤解のないように書いておくと、私は内製に反対ではない。むしろ逆だ。

小売のAI活用でよく引かれる数字を並べれば、セブン-イレブンの発注時間およそ4割削減、イトーヨーカドーの欠品率およそ2割改善、ローソンの粗利70億円規模の改善といった成果が並ぶ。この規模の効果は外注の要件定義を三か月やってから取りにいくものではない。現場が自分の業務の癖を知っていて、その癖に合わせて日々直せるから出る。

ただし、これらはいずれも運用が続いている前提の数字だ。三週間で止まった自動化は効率化ではなく単なる一過性の実験にすぎない。効率化の成果は続いた分しか残らない。当たり前のようでいて、この一行が現場ではいちばん軽く扱われている。

現場内製を壊さずに進めるための、三段階

では、どう進めるか。私が実務で使っている順序を書く。抽象論にしないため、あえて粒度を落とす。

第一段階は、書く前の仕分けだ。自動化したい業務を「止まっても誰も困らない」「止まると翌日困る」「止まると売上か顧客に直撃する」の三つに分ける。最初に内製へ回すのは一つ目だけでいい。週次レポートの整形、CSVの突き合わせ、問い合わせの分類タグ付け。ここは失敗が安いので、学習コストを回収しやすい。逆に、在庫連携や受注ステータスの書き換え、価格や配信の自動判断は三つ目に入る。ここを最初にやると、たいてい事故で終わる。

第二段階は、動かす前の「説明可能性」の確保だ。作った本人以外の一人がそのツールについて次の四つを口頭で答えられる状態にする。何を入力に取るか。何を出力するか。壊れたらどこに影響が出るか。止めたいときに誰がどう止めるか。これだけをドキュメント一枚にしておく。コードを読める必要はない。振る舞いを説明できればいい。理解負債はコードの複雑さではなく、この四項目の空白から積み上がる。

第三段階が、運用への引き渡しだ。内製ツールは「作った人のもの」ではなく「業務のもの」にする。オーナーを業務側の役職で決めて、個人名で持たせない。月一回、動いているかどうかだけを確認する棚卸しの時間を作る。棚卸しで「三か月誰も見ていない」ものが見つかったら、迷わず止める。動いているのに誰も見ていないツールが、いちばん危ない。

つまずくのは、たいてい同じ三か所

失敗のパターンも共有しておく。

ひとつ目は、いきなり基幹に触ること。管理画面の便利ツールから始めた組織は伸びるが、受発注データの書き込みから始めた組織はほぼ確実に一度炎上して、そのあと内製そのものが禁止される。禁止まで行くと、取り返すのに一年かかる。

ふたつ目は、成果を「削減時間」だけで測ること。浮いた時間はその時間で何をしたかを記録しないと、半年後には存在しなかったことになる。私は削減時間と並べて「その時間で着手できた施策の本数」を必ず置くようにしている。

みっつ目は、レビューを技術部門に丸投げすること。New Relicの数字が示すとおり、シニア人材の時間はAIコードの後始末にすでに食われている。現場の内製が増えるほど、レビュー総量は跳ね上がる。だから現場側で完結する仕分け、つまり第一段階の三分類が効いてくる。技術部門に上げるのは三つ目のカテゴリだけにする、という線引きを先に握っておく。

見るべき指標は多くない。稼働継続率、つまり作ったツールのうち三か月後も動いている割合。説明可能率、つまり作った本人以外が振る舞いを説明できる割合。そして事故件数。この三つで足りる。作った本数を追いかけ始めると、だいたい方向を間違える。

キーワードは変わっても、この構造は変わらない

半年もすれば、Codexという名前もSidekickという名前も、別のものに置き換わっているかもしれない。それでも構わない。今回の話の芯は特定のツールの機能ではないからだ。

生成の速度が上がるほど、理解の速度がボトルネックになる。この非対称はモデルが賢くなればなるほど広がる。だから問うべきは「どのAIを使うか」ではなく、「作ったものを、誰が、どの粒度で、いつまで理解し続けるか」という設計になる。これは業務システムに限らない。ブランドのトーンをAIに書かせるときも、接客の判断をAIに任せるときも、まったく同じ構造が出てくる。生成物ではなく、生成物を説明できる状態のほうが資産だ。

だから内製化の話は、最終的には組織の話に着地する。誰が説明責任を持つのか。その線をどこに引くのか。ツール選定の会議より、この線引きの会議のほうが、たぶん三年後の差になる。

冒頭のアラートの話には、続きがある。あのあと私たちは同じものを作り直した。今度は仕様を一枚の紙にして、業務側のリーダーをオーナーに置いた。作るのに要した時間は前回の倍だった。ただ、今も動いている。

浮いた二時間が誰のものかを決めるだけで自動化は資産にも消耗品にもなる。地味な話だと思う。地味なのだが、ここが肝要だ。

参考

転載元

※XAが運営するNoteメディアの記事を転載しています。
“つくる火”を分かち合うメディア「Created To Create」

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